「ニイリ」 または 「ニイラアヤグ」 とは何のことでしょうか?

 稲村賢敷の解説では 「ニイリ」 は過去に生きていた人々、私たちの先祖の住んでいるところを意味し、「ニイラアヤグ」 は、それら先祖の人々について歌ったアヤグであると述べています。

 つまり、「ニイラアヤグ」は、まだ文書では記録されることの無かった古い時代に宮古島に住んでいた人々について歌われた歌であり、その人々がどのように考え行動していたのかを知ることができる重要な口碑、歴史資料だということです。

 また、伊波普猷は1943年出版の 『古琉球』 の中で 「 南の島で最も抒情詩の発達した所は宮古島である。 そこには1700年代より採録された30篇に近いアヤゴが伝えられている。」 と書いています。

 但し、歌の形で残された口承文化だけに長い年月歌い継がれる過程で内容がデフォルメされたり、省略された部分もあるのでしょうが、「与那覇勢頭豊見親(よなはせどとうみや)のニイリ」 に代表されるように 「ニイラアヤグ」はそれらの時代を生きた人々の考えや社会環境を知る上で、多くの手掛かりを現代に残してくれました。
 「与那覇勢頭豊見親(よなはせどとうみや)のニイリ」 はこちらでお読み下さい。  
 
 
 
鍛冶神(かずがむ)のニイリ
   「鍛冶屋(かじや)の技術は、いつ誰によって伝えられ発展したのか?」 は、今でも宮古島や八重山諸島の歴史研究をする人々によって活発に論争が続けられているテーマのひとつです。

 実際に家系的に繋がっているという人あり、また多くの研究者による諸説ありと、これから先も論争が止むことはなさそうですが、 論点が多く論争が高まるほどそのテーマに対する人々の認知度、注目度が高くなるので、歴史学や人類学上、さらに宮古島の文化のためにもとても歓迎すべきことです。

 下記の 「鍛冶神のニイリ」 でもそうですが、鍛冶屋をするため沖縄や、宮古島に渡ってきた人々は、漂着といった偶然のケースもあるでしょうが、多くは技術の伝達のためという明確な目的を持って来た人たちと考えます。 その理由は、鍛冶屋の仕事はしっかりとした兵站(へいたん = 補給のための輸送手段)、今でいうロジスティックが出来上がっていなければ続ける事ができません。 新しく鍛冶屋を始める地域では、現在のように鉄の原料を現地でリサイクルで手に入れることができないので、鍛冶屋は鉄鉱石を本土の鉄工業の盛んな場所から確実に手に入れる購入・配送ルートを持っていたと考えられます。 この歌にある 「船の準備を整え」 の中には、間違いなく原料となる鉄鉱石や砂鉄の積み込みもあったはずです。 (宮古島キッズネット)
   

             

稲村賢敷のまとめた 「鍛冶神のニイリ」 の詩と訳は以下のようになっています。
(訳の部分は、宮古島キッズネットが児童に分かりやすい現代語表記に再編集したものです。)
 
もと歌 歌の内容は次のようなものです
   



1. 鍛冶神(かずがむ)がなすど
しやふね主がなすど

2. まばずみぬ生(んま)りわーい
やまと島生まり 

3. やまと島まんなん
日本島(にふんずま)まんなん

4. かに盛(むい)ぬ三盛 
中むいの盛から

5. 生りわらまい 
はるきわらまい

6. 大鞴(うぶふき)ばつふあまい
大かんか盛らまい

7. 大鎚(うぶつつ)ばつふぁまい
鎚がまばつふぁまい

8. 大箸(うぶばす)ばつふぁまい
かずどうばつふぁまい  

9. なぎふとうくわを
はばゆく手ぐわを生(んま)らしどわらまい 

10. やまと島育(しゆだ)て  
日本(にふん)島育てまた育てでやりば

11. 船がまばうしゅき 
ぴやさぎ(船)ばうしゅき

12. 船がまぬ荷物や
ぴやさぎ(船)ぬ荷物や

13. 鍛冶道具(かずどう)ば荷ゆし
しゃふ道具(どう)ば荷ゆし

14. 沖縄(うちなー)島んみゃまい
按司(あんじ)元んんみゃまい 

15. 沖縄島育て
北南(にすばい)ば育て

16. 育てぴゃーしわちか
また育てでやりば  

17. 船がまばうしゅき
ぴやさぎ(船)ばうしゅき

18. 宮古島んみゃまい 
殿平良(とのびらら)んみゃまい  

16. 宮古島育て 
北南(にすばい)ば育て

20. 育てぴゃーしわちか
また育てでやりば 

21. 船がまばうしゅき
ぴやさぎ(船)ばうしゅき

22. 多良間渡り
三ぱら島渡り 


1. 鍛冶(かじ)神さまの
大工(だいく)神さまの

2. お生れなったのは
やまと島でお生れなった

3. やまと島の真中
日本島の真中

4. 鍛冶の黒鉄の
積み上げられた中に

5. お生れになった
お生れになった

6. ふいごを作り
鉄の作業台を作り

7. 大きなかなづち打ち上げて
小さなかなづち打ち上げて

8. 「大ばし」 は鉄の鋏(はさみ)
「かずどう」 は鍛冶道具

9. 長さ 15㎝位のクワや
4本の指を揃えた幅のクワを作り

10. やまと島の人々に教え終わると
さらに教えを広めるために

11. 船の準備を整え船を出して
船を出して

12. 船の荷物としては
船の荷物としては

13. 鍛冶道具を積み込み
大工道具を積み込み

14. 沖縄の島に渡ってきた
領主のもとに渡ってきた

15. 沖縄に鍛冶技術を
いたるところで教えられた

16. 教え終ると
また次の地で教えるために

 17. 船の準備を整え船を出して
船を出して

18. 宮古島においでになった
平良においでになった

19. かくて宮古島北南の
各地に広め各地に広め

20. 教え広められたら
更に教えるために

21. 船の準備を整え船を出して
船を出して

22. 多良間島に渡り
三原島に渡られた

 
 
宮古島キッズネットでは、応用統計学や社会統計学により歴史的記録内容の検証を行っていますが、今まで保存されていた歴史的資料や残されている遺物、遺産は全て今後の研究のためにあるがままを伝える事を原則としています。 つまり、「その時代、その場に居た人の正確な記述や信頼性の極めて高い証言を確認できない限り、全ての歴史的な話はモチーフとして尊重し、あるがままを後世に伝える」 との基本姿勢で時代背景を含め複数の資料を参考に編集を行っています。
 

参考資料:
1. 宮古島庶民史 稲村賢敷 著(1972年出版)
2. 宮古島舊記(1934年発行 平良町誌 付録)
3. 琉球聖典 おもしろさうし選釈 伊波普猷 著(1924年出版)
4. 古琉球 伊波普猷 著(1943年出版)
5. 旧記 桑江克英 著 (1939年出版)
6. 宮古島旧史 西村捨三 著 (1884年出版)
7. 沖縄文化論業(4) 文学・芸能論 外間守 著 (1991年出版)
8. 清代琉球紀録續輯 台湾文献叢刊第299種 (1971年)
9. Cincpac Command History Volume 1 (1967)
10. Notes on Loochoo, E. Satow (1872)
11.
Ryukyu in the Ming Reign Annals 1380s-1580s, Geoff Wade Asia Research Institute
 National University of Singapore (July 2007)


 
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