豊年の歌 なりやまあやぐ 漲水ぬクイチャー 根間の主 ばんがむり


鬼虎の娘のあやぐ

      
 
鬼虎ぬ娘のあやぐ
 
カタカナ・ひらがな交じり表記は、
伊波普猷の口述記録を
そのまま掲載したものです。

ばが八重山うずきやや
あむまそいやたイすが
大や主ん そかされ
やぐみ主ん たらさい
おやんまどさまで
あむさりどさまで
ぴやる水のまいんきや
おやんまいおやんま
あむさり ヤイ あむさり
八重山きずとみどク
ヴァがきずとみどク
みやしみるおやんま
たみしみるあむさり
おやんまやありゆてど
あむさりやありゆてど
おやんまどさまで
あむさりどさまで
はいよはい八重山きず
このばづん水むてる
七重まクからずの
一重まクうりらまい
白明井ようりちから
かたなばよこゑだき
ゆうらしよこえちから
おぼむぞよこえだき
あスやがようりちから
むまのやよいクだき
はいよはいさやふのふざた
このばつんかい底すしフィさまち
ふみどグよおやむま
むてどグよあむさり
ヷがやよとみヒり
んにやかいり八重山ぎす
ひやるみづのなぎがと
ぱなむつのなぎがと
なクななきまありゆれば
よむなよみまありゆれば
ふねがまのつきゆれば
みそがまのつきゆれば
はいよはい池間のすざた
おのふねんかいのしフィる
このふねやあかうたがま
めどむのスふねやらん
かまからどあかうたがま
めどむのスふねやク
はいやはい池間のあねた
おのふねんかいのしフィる
このふねやあかうたがま
うやにのスふねやらん
かみなかみいけばと
もつなもちいけばと
そでやまおぼきが
たがぎがそらばなん
ばんがやよみやげれば
ばが八重山みやげればど
ばんがやのおもかげの
まへんどたちゆれば

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このあやぐの内容については、伊波普猷が1924年(大正13年)に出版した 「琉球聖典おもしろさうし選択: オモロに現われたる古琉球の文化」 の中で、次のように説明しています。


私が八重山にいた時には、お母さんと一緒に暮らしていました。
大屋主に 「嫁にするから」とだまされて、
漲水の港まで連れてこられました。
来てみるとすでに本妻がいて、私は妾(めかけ)の身。
私は、妾になるためにここまで連れてこられたのです。

大屋主に父母の島に帰して下さいと頼んでみても、
「この、底のない水瓶をいっぱいに満たしたら帰してやる」 という。

底がない瓶には、どんなに頑張って水を汲み続けてもたまりません。
今は7回巻くことができる髪が、やつれてたったひと巻きになるまで
水を汲み続けても、この瓶をいっぱいにすることなんてできません。

白明井に降りていく時は、まるで刀の刃の上を歩いているようです。
ゆうらじを越える時は大波を越えるよう。
あすやかに降りる時は、廐(うまや)に行くよう。
底のない瓶だから、どんなに苦労して水を汲んでも満たされません。

大工さんを見かけたので
「おじさん、この瓶に底をはってください」と頼んでも、
「いえ、私が底をはるわけにはいきませんので、帰って下さい。」
と断られる。

私はしかたなく、漲水の港近くを泣きながら歩いていた。

その時、小さな漁船が港に着くのが見えたので私は急いで走り寄り、
「漁師さん、池間島の人ですか?
私をこの船に乗せて連れて行って下さい。」
とお願いしても、
「いや、この船に女を乗せるわけにはいかない。
女が乗れる船は後からくる。」
と断られる。

女性の乗っているもう一隻の船が着いたので、
「この船で私を池間島に連れていって下さい」
とお願いすると、
「これから私たちは、魚を担いで売って歩くので、船は出ないよ。」
と言ってさっさと行ってしまった。

私は泣きながら、袖山の方まで歩き続けた。

袖山には高い木があったので、
私はせめて八重山の島影でも見えないかと
その木に登ってみた。

方言での歌の詩はここまでですが、伊波普猷が宮古島の友人富盛寛卓の妻から聞いた物語は次のように続いたそうです。

木のてっぺんまで登ると、故郷八重山の我が家が見えた。
目を凝らして見ると、
祖母は熱心に裁縫をしており、姉は機織りをしている。

その姉が、
「妹よ、あなたはどこに行ってしまったの?」
早く帰って来て、私の仕事を手伝っておくれ」
と言っている。

でも、私がどんなに手をのばして近づこうとしても
けして近づくことが出来ない。

言い伝えでは、彼女は帰る希望を失い、落胆して木から降りることを止めてしまいます。やがて、木につかまっている力を失った彼女は滑り落ちますが、着物の袖が途中の枝に引っ掛かり、そのまま衰弱死したという悲しい結末になっています。

また、現在宮古工業高校の裏にある山が袖山と名付けられた由来が、この娘の話しにあると言われています。

「鬼虎ぬ娘のあやぐ」 については、こちらも合わせてお読みください。
 



参考資料:
1. 琉球聖典 おもしろさうし選釈 伊波普猷 著(1924年出版)オモロに現われたる古琉球の文化 宮古島のあやぐ
2. 古琉球 伊波普猷 著(1943年出版)
 
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