みなさんは、宮古島の民話をきいたことがありますか?
きょうは 「川の種を分ける話」 をします。 種というと、お花の種のことも言いますよね。
川の種というと、どうやら水、それもポトポトとおちるあのしずくのことのようですよ。
しずくや水が集まって、川になるんですね。
このお話は25年前、当時80才の佐渡山マツさんが話してくれました。

絵と文: 佐渡山 政子 (さどやま せいこ)
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1.

むかし、新里村の司屋(つかさや)うたきの近くに、はやり病(やまい)にかかっている男の子がいました。
体中に膿(うみ)をもった、おできだらけのその男の子を、村の人たちは毛ぎらいしていました。
   
2.

ある晩、父親は息子を呼んでこう言いました。
「かわいそうだが、おまえはみんなのきらわれ者だから、村にはいないほうがいい。 野原嶺(のばるみね)の後ろには水がたくさんある。 でもそこは誰もめったに行かない所だから、人の目を気にせずに自由に暮らせるだろう。 そこへ行きなさい」
   
3.

男の子は父親の言う通り野原田(のばるだ)に行き、住むことにしました。
そこでイナゴをとったり、木の実をと
って食べたりして暮らしていました。
   
4.

ある日のこと、田んぼのあぜ道でイナゴをとっているうちに竹やぶに入り、竹の切り株をふみはずし足にトゲが入ってしまいました。
あまりの痛さに、男の子は 「あが〜あが〜、助きふぃ〜る〜(イタイ、イタイ、助けてよ〜)」 と、泣き叫びました。
 
5.

その泣き声を聞きつけて、やってきたのは野原村の人でした。 しかし、そばに来てみると、汚いうみだらけの男の子です。 「アガイ、しっしゃなさ〜、お前は病気もちじゃないか。 きたない! 
誰が知るものか。 勝手にトゲにでも刺(さ)されて死ぬがいい」 と言って、見捨(みす)てて行ってしまいました。
   
6. 

他にも何人もの村人が通りかかりましたが、みんな眉(まゆ)をしかめて見捨てて行ってしまいました。
そこへ下地の洲鎌村(すがまむら)の農夫が、牛に水を飲ませるためにやってきました。
そして、助けを求めて泣き叫んでいる男の子に気が付きました。
   
7.

「一体どうしたんだ」。 
よく見ると、はやり病いの男の子が足に大きなトゲを刺したまま、動けずにいるのです。
「アガイ〜、アガイ〜、タスキィフィール(あ〜たすけてよ〜)」 と口を歪(ゆが)めているので、「ツンダラッサー(かわいそうに)」 と言って、トゲを取ってあげました。
   
8.

男の子はようやく笑顔になって 「タンディガータンディ、ありがとう」 と、何度もお礼を言いました。 
そして「お礼に何か差し上げたいのですが、こんな体でどうすることもできません」 と言いました。 
すると、洲鎌村の農夫は 「いやいや、お礼などいらぬ、ただおらの村には水が少なくて、あそこの川の水を分けてもらえると助かるのだが」 と言いました。
   
9.

男の子は「そんなこと、たやすいことです。 こんなことでお礼ができるのであれば」と言って、クワズイモの大きな葉っぱに川の水を包んできました。 
「この水は島にどんな干ばつがやってきても、枯(か)れることがなく、とてもおいしい酒のような水です。 命が若返る水ですよ」 と、呪文(じゅもん)でもとなえるように差し出しました。
 
10.

洲鎌村の農夫は川の水を受け取ると、「タンディガータンディ、ありがとう。 これさえあれば、おらが村もこれからは水には困らない」 と言って、ソロ〜リ、ソロリ、水をこぼさないようにゆっくり、ゆっくり村に帰りました。
牛さんもひもを農夫の腰に巻かれて、ソロ〜リ、ソロリとついていきました。
   
11.

ところが、農夫は村へ帰る途中下地のツシフグのあたりまで来ると、石につまづいて倒(たお)れてしまいました。
その拍子(ひょうし)に、クワズイモの葉っぱで包んできた水は、見る見る地面にしみこんで、やがては消えてしまいました。
   
12.

がっかりしている農夫の目の前に、地中から水が湧(わ)き出し、川となって流れ始めました。
農夫はこの不思議な出来事に大喜びし、踊りだしました。 
今ではこの川はピサ川と呼ばれており、沖縄製糖のそばを流れる酒田川(サキタガー) にそそいでいるということです。 

うすか(おしまい)

   

 
   


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